[書評] コミュニティとコミュニティマーケティングを学ぶための教科書的な1冊!『ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング』
しんやです。
最近はクラスメソッドにおけるコミュニティ活動の活性化・活性化支援を行うとともに、個人的にも社外の様々なコミュニティに積極的に"参戦"しに行こうというモードになっています。
そんな中、2024年07月に開催した弊社カンファレンス「DevelopersIO」にて小島さんがコミュニティ及びコミュニティマーケティングに関する登壇をされていた事もあり、今回のタイトルにもある小島氏の書籍『ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング』を読んでみようと思い立ちました。
小島氏登壇のセッション情報はこちら:
当エントリではこの書籍を読んで個人的に印象に残った部分等について整理していこうと思います。なお、この書籍についてはDevelopersIOで2年前に書評が書かれていますが、クラスメソッドに伝わる「ブログ記事 時期が違えば 別の記事」という教えに従い、特に気にせず書くことにしたいと思います。
読もうと思ったきっかけ
本書を読もうと思ったきっかけ、理由は幾つかの状況や要因が重なったことに依ります。主にこんなところでしょうか。
- 業務の1つとして「クラスメソッド社内におけるコミュニティ活動の支援・サポートを行う」
- 先日アナウンスした下記の生成AIコミュニティに関する展開もその一環です。
- (上述記載のように)ちょうど小島氏の「コミュニティ」「コミュニティマーケティング」のイベント登壇を目の当たりにする機会があった
- コミュニティによる各種勉強会やイベント事についてはそれこそ10年以上前から色々なものに参加してきており、クラスメソッドに入ってからは社内で様々な勉強会、啓蒙活動も行ってきたが、社外に広く展開するコミュニティ活動、イベント展開はそこまで積極的に関与してはおらず、改めてコミュニティ/コミュニティマーケティング/社外の方々との積極的な交流といった部分に興味関心を持つようになってきた
そんな状況で小島氏の書籍を目にしたら読まないわけにはいかないでしょう!という事で手に取った次第です。
要点・感想など
ここからは各賞において個人的に気になった部分を書き連ねていきます。
第1章 AWSを成功に導いた「コミュニティマーケティング」とは何か
第1章では小島氏が自身の職歴やそこにまつわる原体験を振り返りながら、どのようにコミュニティマーケティングに携わっていくようになるかについて言及されており、今でこそ割と大きめに「情報共有」「情報発信」の有効性、重要性が各方面で語られることは多くなって来ていますが、小島氏はかなり前(10年以上前から)その部分に着目して意識して動いていたことがわかります。
Flexユーザーグループ(FxUG)立ち上げの際にAdobe米国本社とのミーティングで「この新しいテクノロジーを、コミュニティを通じてもっと多く、世に知らしめなければならない」というフレーズが出てきており、そのためには「コミュニティに 対して 売る(Sell to the Community)」のでは無く、「コミュニティを 通して 売る(Sell through the Community)」という考え方が大事である、というのも確かにその方が情報や評価評判をより多くの人達に届けることができますし腑に落ちます。コミュニティを拡声器・媒介的に活用していくべきなのだと認識しました。
また、始めから「ビジネスの側面も絡めるべき」という部分がクローズアップされているのも「そらそうよね」となりました。当然サービス、技術の提供元からしたら「いかに我々が提供するこの要素を皆に知ってもらい、手に取ってもらい、購入してもらうか」が大事なのであって、そのためにマーケットをどのように拡大するか、ビジネスに繋げるのか...それが所謂「コミュニティマーケティング」であるし、本書全体を通じて語られています。
一方で「ビジネスの絡め方」については当然ながら最新の注意を払うべきだし、折に触れて小島氏もその点を振り返っています。エンジニア目線・技術視点を忘れないというのはとても大事ですし、一方でそれだけでもビジネスに繋がるかというとそういうものでもない。両者のバランスと塩梅が重要。第1章の前段「はじめに」で
- コミュニティマーケティングとは、ファンをコミュニティ化することによって顧客を増やすこと
- コミュニティマーケティングでは、インフルエンサーによるマーケティングとは異なり、金銭的な対価や報酬のやり取りはない
と説明されているのもこの章を読み終えると納得が行きます。
第2章 新しい視点をもたらす「コミュニティマーケティング」
第2章ではコミュニティマーケティングが「既存のマーケティング戦略の中に追加されるものでは無く、根本的にマーケティングの考え方を変える、新しい考え方」であるという点について言及・解説しています。
小島氏の書籍や登壇で良く目にする「ファーストピンを狙え」というフレーズ、これは書籍物理本の帯でも強調されているものですが、"同じ視点を持つ人の声は人を動かす"という効果、また皆の「良いよ」という事を集めること、その集まった声を聞く人を集める場が求められるコミュニティマーケティングにおいてこの部分を見極めて人選していくのはとても大事です。小島さんの過去の経歴においてもこの部分は書籍で言及されています。
ミートアップにおける(回次毎の)新規参加人数の割合についてはおよそ半分(40%〜60%)くらいが望ましい、という部分は先日参加したKT氏(from Snowflake)の下記イベント発表でもほぼ同じニュアンスで言及されていました。コミュニティの成長(グロース)を見る指標としてはやはりここを念頭においていくべきなんですね。
コミュニティマーケティングに於いて評価クチコミが有効である、という部分の例えとして「井戸端会議」を挙げたのは実に分かりやすいなと思いました。また「そこに行けば新しい情報が得られる、最先端の学びの場である」というコミュニティの"訴求力"も一定数必要であることも痛感した次第です。
章の広範では、"◯◯という会社に所属している"というラベルではなく、これからは個人、個のラベルが大事になってくるとも述べられています。コミュニティに個人で関わる事で得られる様々な効果、好循環について実例を挙げています。
第3章 「コミュニティマーケティング」を成功させるための鉄則
この章では、コミュニティマーケティングを実践していく中で大事にすべきポイントを列挙しています。
まず初めに掲げられていた「3つのファースト」。これは3つそれぞれが強く自分の中で響きました。
- オフラインファースト:
- 本書を読んでいる2024年09月現在、幾らかはオフライン開催のイベントも増えてきた印象がありますが、こと社内においてはまだオンラインイベントの割合が多い印象です。
- オンラインの手軽さと便利さ、オフラインで実際に顔を突き合わせる事で得られるメリットそれぞれを体験して来た中で、コミュニティ活動における「オフライン」の効能はやはり捨てがたいものがあるなと。
- 読んですぐに「まだオンラインが主な現状でこの"オフラインファースト"、どう進めていくのが良いんだ?」と思いましたが、そこは補足の形でカバーされていました。それが下記小島氏の個人ブログ。合わせて読み込み、ポイントを念頭に置いて動いていこうと思いました。
-
コンテキストファースト:
- 所謂「興味関心軸」。このコミュニティではどういう事を扱って、どういう人達に集まってもらいたいかを明確に定義することが大事というもの。興味を持ってくれているユーザーは掲げられているこの情報を見て「コミュニティやイベントに参加してみようかな」と考えてくれる事を考えると、その判断に足る、安心して参加へのステップを踏み込んでもらえる情報を定義しておきたいなと思いました。
-
アウトプットファースト:
- クラスメソッドには「DevelopersIO」というブログメディアがあり、イベント登壇の際には登壇者自身が「登壇しました」ブログを発表資料と合わせて公開することが"いつもの風景"になっています。開催レポートなども同様にクラスメソッドメンバー自身が公開する事も多く、それであれば「参加者の我々がブログを書かなくても良いんじゃないか?」となっている部分も無くはないかなと思っています。
- ただ、この部分を読んだ後は「コミュニティの事を考えると、クラスメソッドメンバーが関わっているもの、登壇者然り運営メンバーによるアウトプットはこれまで通りで良いと思うが、合わせてそれ以外の参加者やスタッフの皆さんにもアウトプットファーストを(意識して)声掛けしていく事も大事なのでは...?」と思うようになりました。
- 声掛け、お願いの際の進め方や言い方については工夫したり色々注意をしながら、というのは言うまでもない。
- SNS(X)でも質疑応答でもブログでも、皆さんにアウトプットしてもらえるスムーズな流れや仕組み、問い掛けや呼び掛けに関して工夫をしてきたい。
また、個人的にこの章で「オッ」となったのは所謂「タダメシ狙い」勢の対策についても数年前の書籍刊行の時点で一定の回答が小島氏によって提示、提案されていたことです。コロナ禍を経て事ある毎にこの「タダメシ狙い」に対する主義主張がなされ、その度にちょっとした炎上騒ぎが起きたりもしていますが、コミュニティ運営側と参加者側の関係性を見つめてみると「何やかんやでそれが一番まっとうな対策だよなぁ」という読後の感想でした。
第4章 「コミュニティマーケティング」の実践ケーススタディ
この章ではコミュニティマーケティングが効果を発揮しやすい、向いている商材やビジネスモデルに付いて幾つかの例を挙げて紹介しています。紹介されているCASEは以下のxつ。
- CASE1. LTV(ライフタイムバリュー)が重要な商材
- CASE2. まだカテゴリーが十分に認知されていない商材
- CASE3. いいフィードバックループを作ることができる商材
- CASE4. コミュニティ文化を理解している利用者が多い商材
- CASE5. すでに熱量の高いファンがいる商材
個人的に刺さったのはCASE4に書かれている内容。所謂「Give&Take」に関するものでしたが、一方的なものでは無く、相互に/対等に交流や情報発信が行える形が理想だな、良いんだろうなぁとしみじみ思った次第でした。
また、この章では合わせてBtoB事例として「AWSを参考にしたサイボウズ"kintone Cafe」、BtoC事例として「熱狂的なファンを魅了したヤッホーブルーイング」がそれぞれコラムとして紹介されています。実際にどういう流れで取り組んでいったのかが分かりやすく紹介されていましたので参考になるかと思います。
第5章 「コミュニティマーケティング」は人生もグロースさせる
最後第5章は、コミュニティマーケティングに関わることでビジネスのみならず自身の人生についても変化変革、成長の展開の可能性が広がります!という内容を、これもまた小島さん自身のここまでの状況変化を例に挙げて説明しています。
また、小島氏自身が管理者を務める、コミュニティマーケティングの可能性について、情報を発信、共有、流通していくコミュニティです「CMC_Meetup」誕生の経緯についてもこの章で紹介されています。
自身がグッと来る、興味関心を引くような場所がなければ自分で作っちゃえ!というのは「なるほど確かにそうだよな、自分がそう思うってことは同じように考えている人も居なくはないんだろうし、(自分以外の)外に向けて働き掛けてみるのは大事かもな」と思いを新たに致しました。
興味関心という点で言えば、第3章で紹介されていた「コンテキストファースト/関心軸が大事」というポイントが「アウトプットファースト」と合わせてここでも出てきています。明確な表明をすること、情報をこちらから積極的に出していくこと、というのは「他の人に認識認知してもらう」上でやっぱり大事なことなんですね。
まとめ
というわけで、小島 英揮氏の著書『ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング』の紹介でした。初版発行は5年前(2019年03月)ですが、2024年現在の今でも現場でバリバリ活用出来る知見が満載の1冊でした。外に向けて積極的な働き掛けはやっぱり大事なんだな、そのなかで情報発信の効果や効能は思った以上に広く波及していくものなんだな、と思った次第です。今後に向けて色々参考にしていこうと思います。